自分宛の手紙をもう一度書くとして - SHE'S <Letter>を聴いた
『10年後の自分へ』
『20歳の自分へ』
そんなメルヘンチックなタイトルのついた自分宛の手紙を書いた頃を思い出してみる。はっきり言って、この手の課題が大嫌いだった。だからまったく乗り気じゃなかったこと、適当に鉛筆を走らせていたこと、、、そんなぼんやりした苦い記憶が蘇った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
リモートワーク中にラジオから流れてきたこの曲を聞いた時、思わず仕事する手が止まった。パーソナリティが楽曲紹介をした次の瞬間、私はSpotifyで検索し楽曲をじっくり歌詞とともに聴き始めた。その時に思い出したのが冒頭の自分宛の手紙だった。
SHE'Sは大阪出身の4人組ピアノバンド。メンバーはボーカルとピアノの井上竜馬さん、ベースの廣瀬臣吾さん、ギターの服部栞汰さん、ドラムスの木村雅人さん。Wikipediaによるとこの特徴的なバンド名は実在する同級生の女の子を指すらしく、『独特のオーラを持った「彼女」は何を考えているのか?(SHE IS…)』から由来しているらしい。だからだろうか、彼らが作り出す音楽の中で浮かび上がる女の子は印象深い気がする。
まだ彼らについては勉強中だが、今年7月に発売された【Tragicomedy】は名盤だと思う。この秋の私のパワープレイアルバムだ。1曲目のPrologueというタイトルには夜明けを意味するDawnがつけられている。そしてラストは眠りにつく意味でSleepというワードが含まれている。アルバムがひとつの作品として見事に成立しているように思う。良かったら是非(という急な販促)!
話を<Letter>に戻して。
<Letter>のイントロは優しいピアノの音から始まる。シンプルな音が並ぶこのフレーズがラジオから流れてきた時、私の心を掴んだ。こういった音はシグナルのように感じることが多い気がする。これから語られる何かが自分にとって大切なものになるであろう、そんな予兆の音。
そしてそこから続く言葉は自分との掛け合いになっている。
「おかえりもう1人の僕上手くやれたかい?」
「うんそれなりに。」
「想いは手放したし、我慢するのだって慣れてきた。」
そこから繋がるサビのメロディは果てしなく優しい。ドラムが刻む心臓音のようなリズムに寄り添う彩のベース、井上さんの高めの声とピアノのメロディラインに息吹を加えるギター。全てが混ざりあった時、彼らの音楽から聞こえるのは「大丈夫やで」という言葉だ。
不確かなものに向かって進まなきゃ行けないとき、1番欲しい言葉。でも他人に無責任に軽く言われると嫌気がさす言葉。それが「大丈夫」だと思う。
<Letter>が奏でる優しい「大丈夫」がすっと自分の中に溶け込むのはこれは他人からの大丈夫ではないからだ。これは自分宛の<Letter>なのだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
私は思い出した。なぜ学校で半強制的に欠かされる自分宛の手紙が嫌いだったか。
不確かなものに手紙なんて書きたくなかったのだ。書いている内容が叶わなかった未来の自分がこれを読んで方を落とし落単しているのが想像できてしまったからだ。そんな私に誰も大丈夫だなんて言ってくれない、そう思っていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この曲の締めくくりで印象的なのはモールス信号のように歌詞から発せられる「探している」というワードだ。
探している 知りたくて 探している
この手紙の書き手(自分)は一緒に探してくれている。ひとりじゃないから大丈夫。
自分のとの会話にほかならないが、優しく肩を抱いてくれるようなこの歌詞に私は計り知れない力を貰っているような気がする。
このタイトル<Letter>は複数形ではない。交換しあった手紙や何度もやり取りをしているものではなく、特別な一方通行な思いの詰まった手紙なのだ。
だからこそ、SHE'Sが奏でる音の言葉に掴まれるのかもしれない。
これを聞いたあと、自分宛の手紙をもう一度書くとしたら私は前向きに書けそうな気がする。