carpe diem

エイトと声優と音楽とお酒とアート。時々ドーナツ。

パイと独立宣言 ーミュージカル『WAITRESS』に行ってきた

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素晴らしい公演だった。

3月20日からいいだけ時間が経った今でも私の中でのスタンディングオーベーションが鳴り止まない。

あの3時間、私はジェナの人生を共に生きていた。

 

私は彼女が焼いたパイでお腹がいっぱいだ。 

劇中のようにパイにその時の感情にまかせてタイトルを付けるなら「コロナ禍や取り巻く日々の嵐で塞ぎ込んでいた感情が涙になったよ。ありがとう高畑充希ちゃんパイ」かな。(ネーミングセンス皆無だなぁ…)

 

 

※ここからは公演の感想なのでネタバレ含みます

 

 

She Used To Be Mineと出会って

今思うとこのミュージカルとの出会いは偶然だった。テレビ番組『おげんさんといっしょ』で高畑充希ちゃんがお気に入りのブロードウェイミュージカルナンバーとして披露した《She Used To Be Mine》。美しい英語の歌詞と惹き込まれるメロディを目の当たりにした瞬間に好きだと確信した。そして私はおげんさんの番組が終了するやいなやオタク得意の検索でブロードウェイミュージカルを調べまくった。途中大好きな洋楽歌手Jason Mrazが出演していたことを知ったのも個人的に嬉しいサプライズだった。

 

この楽曲のタイトルをそのまま訳すると「彼女は私のものだった」。この楽曲を歌うジェナは望まない妊娠、望まない結婚、望んでいなかったけれどやってしまった不倫、、、自分の意の通りに行かない自分をどこか一歩下がって歌っているようだ。

 

 

ジェナはぐちゃぐちゃだった。

まるで彼女が焼くパイの具のように。

 

この歌詞で好きな部分がこの部分。

※訳は私が舞台を見て受けた印象をふまえて訳してます

 

She is messy but she's kind

(彼女はとっ散らかっているけど優しいの)

She is lonely most of the time

(彼女はほとんどいつも寂しいの)

She is all of this mixed up

(彼女はあれこれぐちゃぐちゃだけど)

And baked in a beautiful pie

(それを全部美しいパイにして焼いちゃうの)

 

どんなことがあっても、大好きだったママの教えとそのレシピに沿って美味しいパイを生み出すことができるジェナ。私はそんなジェナが持つ強さに涙が止まらなくなっちゃったんだと思う。

 

この曲はジェナの独立宣言の歌だった。

 

 

SUGARという囁きとダイナーの女性たち

このミュージカルで印象的だったのが場面転換で響き渡る“SUGAR”というコール。この時私の脳裏に浮かんだのは小さい時から聞いていたマザーグースの一曲。

 

What are girls made of

What are girls made of 

Sweet and spice and everything nice

That's what girls are made of

 

女の子はなにでできてるの?というフレーズへの問いに対して「甘いもの、スパイスの効いたもの、そしてすべての素敵なものよ」

 

ジェナたちは道徳的に全てが正しいキャラクターではないけれど優しさを持っている。そんなジェナたちを象徴するようなSUGARのコールだった。

 

余談だがこのマザーグースでは男の子はFrogs and snails and puppy dog tails 「カエルとカタツムリと子犬の尻尾」というないようになっている。男子=悪ではけしてないけれど、この物語でジェナの夫のアールは最低だし、良い人風に見えてポマター医師もまた別の人と不倫しそう(←個人的見解です)だから妙な説得力かある。

 

 

独立の象徴を内気なドーンが演じた意味

ジェナの職場仲間で一際私の目を引いたのが内気でちょっぴしオドオドしているメガネっこのドーンだった。高めの声でテンションが上がると高速で喋り始める彼女が初めてできた彼氏と親密になるきっかけが歴史専門のヒストリーチャンネルだった。どこかオタク気質で独立という言葉とかけ離れていたドーンがある場面でアメリカ独立戦争時代のコスチュームを着ていた。

 

ドーンの手には初期のアメリカの星条旗。椅子に腰掛けそれを縫う動作を見てピンときたと同時にいろんなピースがバチっとはまって鳥肌がたった。

 

ドーンはアメリカ独立のときに星条旗を縫ったと言われているベッシー・ロスになりきっていたのだった。

 

戦争のときでも爆撃の中で星条旗が高らかと朝日の中立っていたというのがアメリカ国歌の内容。朝日のことを英語でDawn(ドーン)という。そう。新しい朝をこのダイナーのなかで引き寄せたのはあのドーンだった。この瞬間、私はドーンのことが大好きになったのだった。

 

そして余談だがドーンの歴史オタクの彼氏は同じ場面でポール・リビアの衣装を着ていた。彼はボストンでイギリス兵の襲撃を知らせた英雄。朝日が来る前に愛する国(アメリカ)を守った人をチョイスしたっていうのもまた面白い。

 

(私自身、アメリカ歴史オタクなのでこういうギミックが嬉しかったりする)

 

この作品、ずっと昔に映画になっていたらしく私も先日それを見てさらに『ウェイトレス』の世界に引き込まれた。映画だとパイ作りのようすがもっとアップで見れるので中身をぐちゃぐちゃに混ぜている様子がわかって、歌の歌詞がもっと鮮やかになって届いてくる気がした。

 

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本当に面白い作品だった。

高畑充希ちゃんの歌声はどうしてあんなにも聴く人の心を掴むのだろう?

 

いつかまた見たい、そう思える作品だった。